会社が退職証明書を発行してくれない

1.退職証明書とは

退職後に請求権が発生する退職者の使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由を記載した元使用者発行の証明書です(労働基準法22条)。従前は「使用証明」等と呼ばれていましたが、平成10年の労働基準法大改正の際に条文の題が「退職時の証明」に改められてから一般に「退職証明書」と言えばこれを指します。

退職事由に係るモデル退職証明書

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※決まった様式はない

労働者が証明書を請求した場合においては、使用者側はこれを遅滞なく交付しなければならないとされています(労基22条1項)。また、この証明書には労働者が請求しない事項を記入してはならないことになっています(同条3項)。具体的には、退職の理由を記載しないように請求すると、これを記載することは許されません。さらに、労働者を関連業界から締め出すためのいわゆる「ブラックリスト」に乗せる為の試みをすることや、証明書に秘密の記号を記入してはなりません(同条4項)。

 

2.退職証明書は何に使うのか

 一般に、①転職する会社への提出、②保険等切り替えに際して退職日の確認などに用いられます。

①の場合、転職する会社が必ずしも求めるものではありませんが、本人の経歴を確認するために提出を求めることがあります。

②の場合、国民年金への切り替えや失業保険給付申請などの際に退職日その他の労働条件を確認する為に用いることがあります。

切り替え手続き等の場合は本来資格喪失証明書、離職票でも可能ですから、主な用途は①の場合になります。したがって、退職する時点までに転職先が決まっていれば転職先に必要かを問合わせて、また、決まっていなければ念の為に、交付を請求する方が無難です。なお、弊所では退職後にも2年以内であれば発行が必要になった際に、申し入れを行っています。

3.退職証明書がもらえないなら

 以上で見てきたように、退職証明書は労働者の転職などに必要な書類であることが分かります。

しかし、これを請求しても応じない企業がなんと多い事か・・・。

・うちではそんなの発行していません。
・離職票送ったでしょ?
・図々しくありませんか?・・・等々

確かに、もう辞めた人間の為に事務リソースを割きたくないという気持ちは分からなくもないです(単に知らなかったという場合もありますが)。しかし、退職証明書の発行は法律上義務付けられているものであり、義務履行の担保として刑罰まで設けられている重要なものです。具体的には、交付を請求しても正当な理由なく交付を拒絶したり、遅滞すると三十万円以下の罰金に処されることになります(労基120条1号)。もっとも、請求しないと交付する義務もありませんから、ちゃんと「請求した」と言える手段を取る必要があります。一番確実なのは内容証明ですが郵便料金(1500円前後)の問題もあるので他の手段で請求して応じなければ取る手段になります。

弊所でも出来る限り穏便に発行して貰えるように依頼人様の意思を伝えてはいますが、それでも発行しないという会社は後を絶ちません。終局的に請求に応じない場合は労基に対して指導と罰則の適用を求めることになりますが、当事者にとって良いことなんか一つもありませんから、ちゃんと企業コンプライアンスは守って欲しいものです。

※労働基準法22条 (退職時等の証明)
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
○2 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
○3 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
○4 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。

※労働基準法120条
次の各号の一に該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
1号・・・第22条第1項から第3項まで・・・の規定に違反した者(以下略)

※遅滞なくとは
「事情が許す限り早く」というニュアンスで用いられます。
なお、事情が許さないかどうかの主張責任は、主張立証できないと不利益を被る使用者側にあると解されます。